まるっと深谷ガイド
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あいにいく(インタビュー①)

2019.03.13

深谷ねぎまつりを、100年続く地域のお祭りに|イタリア家庭料理店「パンチャ・ピエーナ」・深谷ねぎまつり 

【栗原統さん】

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まだまだ面白くできる

深谷市といえば、全国1位の生産量を誇る深谷ねぎを思い浮かべる方も多いだろう。

その深谷ねぎの可能性を、地域を代表するお祭りにまで広げた、イタリア家庭料理店「パンチャ・ピエーナ」店主で深谷ねぎまつり実行委員長の栗原統さんを訪ねた。

栗原さんは生まれも育ちも深谷市。幼い頃から暮らしてきたからこそ、地域の変化を肌で感じている。

「だんだんつまらない街になってきちゃったなと思うんです。若い子が遊びに行ける場所もないし、地域の中での遊び方も分からない。きっと、自分より少し上の世代が自分たちの力で地域を盛り上げようとする姿を子どもに見せてこなかったんだろうな。今は寝に帰るだけの街みたいになっちゃっているけど、本当は、まだまだ面白くできると思うんです」

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栗原さんが実行委員長を務める深谷ねぎまつりは、2019年で7回目の開催となった。来場者数は年々増え続け、わずか1日で市内外から15,000人が訪れる。今や深谷を代表するお祭りに育ったが、栗原さんはここまで大きくなるとは思っていなかったと振り返る。

「最初は、ねぎ農家の高橋と深谷市議会議員のミルク082(おやじ)と自分の3人で、ここ『パンチャ・ピエーナ』でご飯を食べているときに、身内でちょっと楽しいことをしようという話から始まったんです。深谷といえばねぎなので、深谷の子どもたちに楽しい思い出を持ってもらって、ねぎ嫌いの子がいなくなればいいなくらいの気持ちでした」

3人は学校の文化祭くらいの心持ちでいたのだが、協力者はみるみる増え、思いがけない広がりを見せる。

「深谷市役所職員の山田君にねぎ祭りの構想を話してみたら、瀧宮神社で開催できたらお祭りらしさが出てもっと面白いんじゃないかとアイディアをくれたんです。そのまま宮司さんに相談してみたら、できる限り協力するよと言ってくれて」

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深谷ねぎは、深谷で採れるねぎの総称であって品種ではない。同じ地域内でも北と南では土の質が異なるため、栽培に適した品種も味も生産量も異なる。
それなら、調理方法を変えて食べ比べ、それぞれの個性の違いを楽しめるようにしてはどうか。栗原さんのアイディアを一緒にあたためてくれる人も次々現れた。

「近所のうどん屋さんの三男坊の女将が、農家さんは丸焼きで食べるらしいよと教えてくれたり、元塾講師のライターさんが、スペインではカルソッツっていう泥ねぎ焼き祭りがあるよと教えてくれたり、色々な人が情報とアイディアを寄せてくれました」

深谷市役所も第1回目の開催から全面的に協力してくれた。不足している備品があると聞けば快く貸し出して下さり、イベント当日には協働推進課の課長をはじめ、市役所職員がボランティアとして出向き、音響担当やゴミ拾いを行って力を尽くした。

"想い"がなくなっちゃったら、続けていても意味がない

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ねぎまつりの準備は1年がかりだ。栗原さんを含めて実行委員は10名程度で、全員が有志のボランティア。それぞれ仕事の合間や休みの時間を持ち寄って、夜、「パンチャ・ピエーナ」に集い作戦会議をする。運営メンバーの農家さんは朝4時起き。眠い目をこすりながらねぎ祭りの成功のために企画を練る。

本当は人の世話を焼いていないで、自分のお店でピザを焼かないといけないのにと栗原さんは笑う。

「限られた人数でこの規模のイベントの企画運営となると、事前の準備は本当に大変です。ボランティアでやっているねぎまつりに時間も労力も注ぎ込んでしまって、今、自分のお店が回っていないんです。生活の事を考えると、正直、もう辞めたいと思うこともあります」

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「でも、15,000人もの方々が深谷に来て楽しんでくれる。それに、一緒に準備してきたメンバーみんなの笑顔や、来場者に嬉しそうにねぎを振る舞う農家さんや出店者さんの姿を見ちゃうとね。やっぱりやめられないな、続けて行きたいなと思うんです。来ていただければ、喜んでいただければ、自分はそれでいいんです」

栗原さんが目指すのは、100年続く地域のお祭りだ。そのためにも、ねぎまつりをただねぎを食べて楽しむだけのイベントにしてしまっては意味がない。その根底には、地域で育つ農作物への感謝の気持ちを絶やすことなく抱き続けたいという想いがある。

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「小さい子どもからおじいちゃんまで、老若男女、みんなで集まって土地の恵みに感謝する。そして、楽しい時間を共有する。今の日本では忘れられがちだけど、生きていく上で大切なことを地域全体で確かめ合えるのがお祭りの良さだと思うんです。恩返しってほどでもないけど、せっかく深谷に住んでいるんだから、そういうことを次の世代にもちゃんと伝えていきたい。若い子にも、ねぎまつりの手伝いならやりたいと思ってもらえる地域のお祭りにしていきたいんです」

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お祭りをする意味とその盛り上がりが街全体に行き届いて初めて、ねぎまつりの成功と毎年開催し続ける意味が出てくる。栗原さんには、今後を見据えたアイディアがいくつもある。
2018年から市役所主催で始まった、11月23日の勤労感謝の日に大切な人にねぎを贈る「深谷ねぎらいの日」とも上手く連携を図って、相乗効果を生み出していきたい。

「『深谷ねぎらいの日』から年明けのねぎまつりまでの約2ヶ月間、街中がねぎで盛り上がるのが理想なんです。街中の深谷ねぎ使用店にステッカーを配って貼ってもらうとか。そうすれば、ねぎまつりの来場者が市内の飲食店にも立ち寄ってくれるかもしれない。深谷はねぎ以外にも色々な農作物が採れるし、地元野菜の特徴をしっかり掴んで調理するレベルの高い飲食店が多い。自分のお店じゃなくていいんで、そういうお店をもっと広く多くの方に知ってもらえたらと思います」

深谷ねぎのように柔軟で個性的な、これからの街

地域を構成する最小単位は人だ。その地で暮らす人々、一人一人の活性化なしでは、本当の意味での地域振興には至らない。

栗原さんは、深谷ねぎが深谷市の特徴を表していると語る。

「深谷ねぎが有名なのは出荷量が日本一だからであって、日本三大ねぎだからとか味がどうだからとかではないんです。でも、色々な品種が揃っていて、生で食べてもいいし、焼いても、蒸しても、煮てもいい応用力がある。料理人次第で姿を変え、そして、どんなジャンルの料理にも合う」

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「深谷市もまだその楽しみ方がちゃんと知られていないだけだと思うんです。使われていない施設や空き店舗はいくらでもあって、活躍のフィールドは広がっている。そして、市民の活動に協力的でフットワークの軽い市役所さんもついている。自分がやろうという気持ちがあればどんどん変えていける街だと思うし、それを喜んで受け入れてくれる人がいる地域だと思います」

地産地消を志すイタリア家庭料理店

栗原さんの地域と深谷ねぎへの愛情は、自身が店主を務めるイタリア家庭料理店「パンチャ・ピエーナ」にも貫かれている。

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旅行代理店を経営し、全国を飛び回っていた共働きの両親に代わって、中学生の頃から男兄弟3人とおばあちゃんの分のご飯をよく作っていた。そのご飯をおいしい、おいしいと喜んで食べてくれる、家族の笑顔が嬉しかった。

「イタリア料理は、地方料理の集合体。その土地の食材にプライドを持って作るのが大前提なんです。深谷にはねぎの他にも、ブロッコリーやきゅうり、とうもろこしなど、良質な農作物が生産されている。お店を始めた当初から、地元の農家さんから直接仕入れた深谷の食材をできる限り使うことを心がけています」

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お客さんからの恋愛相談には、「おさむママ」というキャラクターで応じてくれる。ママには、金勘定以外、世の中の全ての事が見えている。

「恋愛、仕事、移住、深谷のこと。どんな相談でもいいよ。お店に来てくれれば、ハグしてから全部聞いてあげるよ」

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「パンチャ・ピエーナ」は、キッチンの向かいにあるカウンター席から埋まっていくお店だ。それはきっと、自分の事以上に地域全体のことを気にかけ、お客さんの笑顔を大切にする栗原さんの人柄と無関係ではない。

深谷市を訪れる際には、少しだけ足を伸ばしてここ宿根町の栗原さんに会いに来て欲しい。地元農家さんが大切に育てた食材を一番美味しい方法で調理する料理人・栗原さんが手掛ける家庭料理と、「おさむママ」との楽しいトークに、お腹も心もいっぱいになるはずだ。


(文:高田裕美 写真:矢野航 写真提供:深谷ねぎまつり実行委員会)

<イタリア家庭料理「Pancia Piena(パンチャ・ピエーナ)」>
住所:〒366-0810 埼玉県深谷市宿根78-1
お問い合わせ・ご予約: 048-575-2535
営業時間:火~土 ランチ 11:30~15:00LO. ディナー 18:00~21:00LO.
日/祝 営業時間(日/祝 ランチ 11:30~15:00LO. 祝日は夜も営業
定休日:毎週月曜日
HP:http://pancia.net/

<深谷ねぎまつり>
住所:〒366-0810 埼玉県深谷市宿根78-1
お問い合わせ:info@negimatsuri.com
HP:https://www.negimatsuri.com/

<深谷に行ってみたい方へ>
深谷市のおでかけスポット:
https://www.fukkachan.com/asobu/a01.html

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